「よう。お前って、屋台の出張とか、できるのか?」
何とはなしに聞かれたそれが、最初のきっかけだった。
オフ会というものに参加したことは何度かあったが、そう多くはない。ましてや自身がその設営に参加することなど、アキラは考えたこともなかった。
気軽に引き受けたオフ会への出張屋台だったが、その後も何度となく同じ人物からの依頼を受け、いつしか恒例となっていった。
引き受けたことを後悔したことがないわけではない。
むしろ、ほぼ毎回、後悔し続けである。
断わろうと思えば断われるのだが、今のところはまだ一度も断っていない。
なぜだろう。
ときには真面目に考えてはみるものの、「なんとなく」といった頼りない答え以外には何も浮かんではくれない。
その日もまた、アキラは同じ「後悔」を覚えながら、「なんとなく」以外の答えを探すべく考えを巡らせていた――。
どこまでも続く緑の丘。
ビーバーによく似た愛くるしい姿をしたチャパ族の村周辺に広がる、通称、薬草の丘。
質の良い薬草がとれることで有名なここは、のどかで静かな場所だ。
――ただし、今日は少しだけ様子が違っていた。
セリンでは言わずと知れたワルでもあるゴージュが、大勢の人間を招いてオフ会パーティを開いているのである。
「あー、やっと休める! となり、座るぜ」
奇怪な顔の描かれた丸い焼き菓子をつついていたヴェントのとなりに倒れこむように座ったのは、アキラ。茶から金のグラデーションに染めあげた髪を逆立てた、一見、不良風の少年だ。
焼き菓子を食べる気はないのか、ヴェントは描かれた顔とにらめっこしながらアキラに声をかけた。
「なあ、アキラ。俺のお好み焼き、まだ?」
「いい加減、小休止! お前んとこのデブチンが鬼のように喰うせいで、朝からずっと鉄板の前に釘づけだったんだぜ!」
答えるアキラの視線の先には、ひと抱えのたい焼きを嬉しそうにむさぼるポッチャリ系の少年がいる。その横には、姉妹だろうか、よく似た顔立ちの金髪の女性と少女が唖然とした様子で座っていた。
「ああ、ジュディちゃんとこのロイ兄ちゃんな。あいつはよく喰うね」
「よく喰うなんてもんかよ。さっき、たい焼き50個ぐらい持ってったと思ったら10分もしねェうちに『お兄さん、たい焼き追加お願いします』と来たもんだ。ブラックホールじゃねェんだから、ちっとは自重してくれや……」
声もなく笑うヴェントを横目にしつつそこまで言って、アキラは不意に口をつぐんだ。
「ジュディちゃんとこの、ロイ兄ちゃん?」
小首をかしげながら、視線はロイの横にいる金髪少女らの辺りをふらふらとさまよう。
「ちょっと待て、あのデブチン、あの娘のアニキなのかよ」
「あれ? 教えただろ、あそこの三人はあれでキョーダイなんだぜ?」
細身のマリー。小柄なジュディ。その間、マリーの弟でジュディの兄。
それがちょっと太めなロイである。
「ちなみに、お袋さんはナイスバディの超美人。見なきゃ信じられねーだろうな」
「マジかよ……なんつう意外な組み合わせ……ってか、あいつ、何を間違えてあんなことに?」
愕然とした様子でロイたちを見守るアキラの横で、空腹に耐えきれなくなったヴェントが焼き菓子を食べ始める。マリー、ジュディ姉妹とロイのあまりにかけ離れた体格差についてはもう見慣れてしまったのか、それ以上は何もつけ加えようとしなかった。
「そ、そういやァよ、意外といえば……」
しばらくして落ちつきをとり戻したアキラは、自身の興味を別の方向へねじ曲げようとするように不自然な調子で切り出した。
「ほら、あそこ。あいつ、なんて名前だっけ?」
指さした先には、これといった特徴のない顔つきの、気の弱そうな少年がいた。
「ン……ああ、ヒロユキか」
「そう、ヒロユキ! オフ会のときのあいつの周りって、なんか異常じゃないか?」
名前を思い出して勢いづいたように言うアキラに、今度はヴェントが小首をかしげながらヒロユキの周囲に集まっている人物らの名を列挙し始めた。
「クラウドさんに……リロイとラグさん……あれ、ウシワ力なんか呼んでたんだ?……イスカンダールのおっさんはいつも通りだな……あ、ティーダ! あいつはこっちだろ」
「派閥はどうでもいいんだよ、この際。もう一度ちゃんと見てくれ。なんか、こう、おかしいだろ。色々と」
「はァあ? みんな強いし、いい人ばっかじゃん。あえて言うなら、やたらイケメン率が高いのは確かに異常だけど、別にうらやましくはないよな」
アキラの真意をはかりかねるヴェントは、言いながら微妙な半笑いを浮かべている。
「見てくれの良さも関係ナッシング! 問題は、主役の大御所ぞろい、それも普段から殺伐とした環境にある連中ばっかり集まってるってとこだぜ。ヒロユキくん自身は一般人だろうに、あきらかにおかしいだろ」
まだ合点のいかない様子で鼻を鳴らしつつ、ヴェントが返す。
「ティーダは殺伐としてるか? リロイはわかるけど」
「いや、あいつはよォ……あ、見ろよ、スコールまで来たぜ」
「お。ホントだ」
見れば、後からやって来たスコールはヒロユキに何か訴えかけているようだ。ヴェントらのいる場所からは離れているため、声は聞こえない。
「リノアが……」
目を細めながらアキラがポツリとつぶやいた。アキラは人の心を読みとる超能力を持っているのだ。
「うわ、ヤバイな。リノアちゃん、リヴァイアサンつれてるぜ」
アキラのつぶやきに応じるように言って、ヴェントは「早く逃げよう」とばかりにアキラの服のそでを引っ張る。アキラは身振りで「もう少しだけ」と答えて意識をヒロユキらのいる場所へと集中させた。
「……こういう場合は、とりあえず謝ったほうが早いですよ、スコールさん」
「冗談じゃない。何もしていないのに、どうして俺が……」
小声で言い合うヒロユキとスコールのそばに、透き通るような青色の龍を従えたリノアがふらふらと近づいてくる。
「スコーォルゥうう……!」
「うわ」
長い黒髪が逆立たんばかりの怒気を放つリノアの形相に、スコールは思わずヒロユキに抱きついた。ヒロユキのほうは涙目になりながら両手のひらを振っている。
「オフ会出席したら、いっしょにみんなに挨拶回りしようねって約束したじゃない! それが来て早々オンナノコとお話してばっかり、イチャイチャイチャイチャとォ……もーぉお許さないんだからァぁあ!」
「ちょっ、やっぱり悪いのはスコールさんでしょ、早く謝って!」
「いや、だからあれは……」
ごちゃごちゃと言い合う男ふたりに指先をつきつけ、リノアは言い放つ。
「だいたいね、あんたも自分の彼女さんの面倒ぐらいちゃんと見てあげなさいよ!」
「え、え、俺なの?」
言われたヒロユキは、次にリノアが指差した先を見やって軽く目を見開いた。
「あ……あ、ルビィ?」
「あんたがしっかり見張ってないから! あの子、ウチのスコールきゅんに目ェつけて割りこんできたんじゃないの。しっかりしてよ、もう!」
幼馴染であるルビィと恋仲だと思われたのが嬉しいのか、ヒロユキは「えへへ……彼女……ルビィ、俺の……えへへ」などとつぶやいている。となりにいたイスカンダールとウシワカからすかさず「照れてる場合か」とツッコミが入った。
ちなみに、少し離れた位置でにやにや笑いながら事の成り行きを見守るリロイの後ろには、自称「逃げ足神レベル」のクラウドが不安そうな顔で身を隠している。
「それと! ティーダ!」
唐突に名指しされたティーダは、ギョッとした様子で自身の顔を指差してみせた。
「ティーダがユウナをひとりで置いてっちゃったのが、そもそもの発端なんだから」
「あー、あれ」
まだ何か言いつのっているリノアに、ティーダはちょっと笑ってみせながら返した。
「スコールにG.F.のことを聞きたいって言うからいっしょに来たんだけど、ユウナって一度質問モードに入ると納得いくまでとこっとん責めまくるから。そうなると俺、横にいたってすることはないし、とりあえずヒロユキのところに来たんだ。……あれ、何か迷惑だったかな。ごめんね、あっははは」
あまりに軽い言い様に、怒っているのが馬鹿らしくなった様子でリノアは小さく息をついた。
「もう、いいよ。ユウナちゃん、迎えにいってあげたら」
「ういーっす」
応じて立ち上がったティーダは、ユウナのほうへと向かいながらも「今度はルビィか、まだ30分は粘るな」などとぼやいていた。
「……さてと」
ヒロユキにしがみついたまま、逃走経路を求めて視線を巡らせていたスコールと向かい合い、リノアはにっこり微笑んだ。
「スコール。ひとまずは許してあげるけど、約束破った罰はきっちり受けてもらうんだから、ね!」
リノアがさっと腕を頭上に上げると、それに呼応するようにリヴァイアサンが勢い良く天に昇っていく。彼女の天使のような微笑みに気をゆるめていた周囲の男たちの顔が、一瞬にして凍りついた。
「うわ、うわ! ヤバイって、リヴァイアサンが動いた!」
「……っと、と」
肩を大きく揺さぶられ、アキラは我に返った。間近に聞こえていた「声」は途切れ、前方を見れば、今まさにリノアがスコール(と必然的にその周囲にいる全員)に向けて海龍型のガーディアンフォース、リヴァイアサンをけしかけているところだった。
「早く逃げようぜ、アキラ!」
「俺たちだけ逃げたって、あの周りの連中は確実に巻きこまれるだろ。逃げるぐらいなら、俺が『止めて』やるぜ!」
「止めるったって……お前、こんな遠くからじゃ……」
ヴェントの不安の声をよそに、ヤル気満々で立ち上がったアキラはガーディアンフォースとの同調に集中しているリノアへと意識を傾けた。
リヴァイアサンは天の高みで静止し、ターゲットを見定めるようにゆっくりと地上をねめ回している。
「対リロイ用に力を磨いてきたんだ。その成果、ここらで一丁、試してやるぜ――」
リヴァイアサンの視界の範疇から一目散に逃げ出そうとするクラウド。その腕を無言でつかんで引き止めるリロイの前に、ラグナロクが彼らを守るように立つ。
ほぼ全ての攻撃を無効化することで有名な、ノルンの《見えない盾》を周囲に展開しているのだろう。それに気づいたイスカンダールとウシワカは、一瞬浮かしかけた腰を再び下ろし、事態を傍観するつもりのようだ。ただし、シールドの存在に気づかないヒロユキはそれどころではない。逃げようとしたところを諦め顔のスコールに引っつかまれ、道連れという言葉を脳裏に浮かべながらパニックの悲鳴を上げていた。
「うわ……もう」
何を言おうとしたものか、ヴェントは声を漏らしながらアキラの背後に身を隠した。
リノアとリヴァイアサンが完全にシンクロし、凝縮された海の力が眼下の人間たちに牙を向く――
と思われた瞬間、リノアの上体がぐらりと揺らいだ。
同時に、ヒロユキの足元から白い影が躍り出る。
「きゃあっ」
バランスを崩したところに白い影の乱入を受け、リノアは背中から草地に倒れこんだ。
「いったーい!」
うめきながらもよろよろと起き上がるリノアの前に、珍しい純白の毛並みをした狼がひょいと鼻先を近づけてきた。
リノアの集中が切れたことにより、リヴァイアサンの姿は既に霧散している。
「か、かわいい……」
呆然と言いかけてから大きく首を振り、リノアは憤然と白い狼に言った。
「な、何よ、これは私とスコールの問題よ。邪魔する気なら、かわいいワンコだって容赦しないんだから」
言いながら、傍らをふらふらと通り過ぎようとするスコールの足をがっしりとつかみ、リノアは正面から白い狼の瞳を見据えた。
「おうおう、姉チャンよォ。この天上無比のアマ公サマ相手に容赦しねェたァ、言ってくれんじゃねェの!」
白い狼――アマテラスの頭の辺りにぴょこんと顔を出した爪の先ほどの大きさの子ども――イッスンを見て、リノアは目を丸くした。そんな彼女に一声「ワンッ!」と吠えるとアマテラスはくるりと踵を返し、草地にへたりこんでいるヒロユキに歩み寄り、リノアのほうへ向き直ってからもう一度「ワンッ!」と吠えた。
「痴話喧嘩もいいけどよォ、いっぺん、落ち着いて周りを見てみな」
イッスンに言われるまま、リノアはゆっくりと辺りを見回す。
クラウド、リロイ、ラグナロク、イスカンダール――リヴァイアサンが消えたことによりいくらか緊張は解けたものの、いまだに警戒をゆるめない男たちの視線が彼女の顔に向けられている。
「これだけ近くに人がいれば、ユーたちだけの問題では済まされないよね~?」
アマテラスとともに、ヒロユキを守るような位置に移動していたウシワカに言われ、リノアはさすがに引きつったような笑みを浮かべた。
「あは……なんだ。みんな、いたんだ」
「いたんだ、じゃないだろう。まったく、怒ると見境がなくなるんだから!」
リロイの後ろから顔だけ出して怒りの声を上げるクラウドにも、殊勝な態度で「ごめんなさい」と返す。
「まあ、喧嘩もほどほどにな。些細な揉め事にいちいち大技を使うのはよくない。せめて《ほうちょう》で我慢しておきなさい。もちろん、トンベリのな」
「はーい」
「……それ、ある意味《大海嘯》より怖いんですが、イスカンダールさん」
冗談まじりのイスカンダールの言葉に、スコールは苦りきった顔でつぶやいた。
場の空気が和らいだのを感じとって、ヒロユキがおずおずと切り出す。
「あ……あの、リノアちゃん、とりあえず、もう怒ってない……んだよね?」
「うん。もう大丈夫」
底抜けに明るく答え、リノアは予備動作なしにスコールの眉間に痛烈な拳を叩きつけた。
「ぐぁっ!!」
「……ハイ?」
スコールの苦鳴に誰かの間の抜けた声が重なる。
「これ、リヴァイアサンの代わり!」
「リ、リノア、お前――」
「あ、そうそう、キスティスに薬草つんできてって頼まれてるの。青い薬草つんでくれたら、完全に許してあげる。さ、行きましょ、スコール!」
「リノアっ、おまえ……!!」
痛みと怒りに言葉が続かないスコールの腕を強引につかみとり、唖然とした様子の男たちには目もくれず、リノアはスコールをつれてさっさと歩き去ってしまった。
しばらくして、リロイがプッと吹き出し、草の上にどっかり腰を下ろして言った。
「あいつも女で苦労するタイプだな、ククッ」
「ああ……でも良かった」
すっかり緊張の解けた面々の視線が、ヒロユキに集まる。
「一時はどうなることかと思ったよ。本当、慈母サマがいなかったら俺、死んでたかもしれない。ありがとう、アマテラス……!!」
涙声で言って、ヒロユキはアマテラスに力いっぱい抱きついた。ふさふさの尻尾を揺らしながら抱かれるままにしているアマテラスの様子は、まるで我が子を守りきって満足する母のようにも見える。
その様を見た周囲の空気が、いっそう和んだものに変化していった。
「ふわー。良かった、なんとか収まったみたいだな」
アキラの背中に隠れたまま見守っていたヴェントが、安堵の声を上げる。それには大した反応をせず、アキラは震える声で叫んだ。
「さ、幸玉……幸玉が!」
「……さちだま? ああ、大神サマが人助けすると相手から自然発生するっていう、あれか。アキラって、そういうオーラも視えるんだっけ」
「すげェ! 幸玉が、全部ヒロユキに吸いこまれていく!」
「なにィ?!」
言われたヴェントは、見えないものを見ようとするように目を細めつつ、離れた場所にいるヒロユキを見つめた。
「マジかよ……幸玉って大神サマ専用のはずだぜ!」
「すげェ……いや、そうか、そうだよな、やっぱりそうなんだ」
確信した声でつぶやくアキラに、ヴェントが視線を向ける。
「今、ようやくハッキリしたぜ。ヒロユキの周りにイカレたヤツばっかり集まる理由が」
「お前、それ、ちょっと失礼じゃないか……」
「あいつが一般人だからだよ!!」
鼻息も荒く言うアキラに、ヴェントは笑っているような困惑しているような、微妙な顔を返す。
「見ろよ、あの心底嬉しそうな顔を。ああいう顔はな、日常的に修羅場ばっかりくぐってきたようなやつには出来ねーぜ。逆に、周りの連中はあの程度の危機、フツーなんだよ。起こって当たり前。だから、なんだ、こう、癒されるんじゃねーかなあ……ああいう一般的な反応するやつを見ると。あと、うっかり守ってやりたくなるんだろうよ、大神サマは完全にその口だな」
「ははァ……そんなもんかね。でも、ティーダはそこまで修羅場ってないんじゃ?」
「あいつはユウナの姑連中がコワイコワイって日常的に吐いてるぜ」
「ハハハ。そういえば」
「まあ、アレだな。ティーダとスコールの場合は、どっちかっつーと、ホラ」
アキラが指差した先をたどると、そこにはルビィがいた。ティーダをまじえ、ユウナと何やら談笑している。
「色んな意味でカノジョが強すぎるって共通の悩みがあるからだろ」
「確かにな!」
ようやく納得がいったようにうなずき、ヴェントは楽しそうな笑みを浮かべた。
その横で急に黙りこんでしまったアキラは、しんみりとした顔でもう一度ヒロユキのほうを見た。
「……。でも、いいよな。ああいうやつって」
「ああん?」
「フツーの、一般人。俺の周りって、事情がこみ入ってるやつばっかりだったからなあ。だからよ、お前も含めて、『読む』必要のないやつ、大好きなんだよな。落ち着くんだ」
「おいおい。俺だってこう見えて結構、フクザツなんだぜ?」
「ばーか。お前は読まなくてもバレバレなんだよ」
スッパリ言いきられ、それこそ複雑そうな面持ちでヴェントは小さく肩を落とした。
いまだアマテラスの白い毛並みに顔をうずめているヒロユキを見やり、その様をどこか物欲しそうに眺めるアキラを見てからふたつ目の焼き菓子に手を伸ばす。
「……お前も、向こうに行って癒されてくればどうよ。そんなに長く休んでられないんだろ」
「ああ? いいよ。俺が行ったらさ」
無理やり作ったような笑みを浮かべながら言って、アキラはワントーン声を低めて続ける。
「俺が行ったら、爆食魔王が空気読まずに突っこんでくるかもしれないだろ……」
顎の先で示した辺りには、ロイがいた。空の大きな皿を手に、きょろきょろと辺りを見回している。
「大変だなあ。配膳係も」
「ああ。今日ここに来たことをちょっと後悔してる」
しばらくそのまま過ごした後、アキラは勢い良く立ち上がった。
「さーて。バトル再開といくか。まずはヴェントのお好み焼きだな」
三個目の焼き菓子を平らげて茶をすすっていたヴェントは、二、三度うなずきながら口の中のものを飲み下し、慌てて立ち上がった。
「ちょっと腹ふくれちまったから、小サイズでいいや」
「OK」
皿を片手にまだうろうろしているロイに見つからないようにと、ふたりは早足でアキラの屋台へと歩き始めた。
ヒロユキの傍らを通り過ぎるときには、なんとも楽しそうな談笑が聞こえていた。