全ての生物に等しく強大な力を与え、死したものには永遠の静寂を与える、眠れる竜の心臓。
それは、彼に何を与え、どこへ導いたのだろう。
静寂を求める彼女は、ため息のように漏らす。
「空気はね、風がないとどこにも行けないの」
誰に存在を知られることもなく、醜くよどんで消えていくだけ――
「……エールもきっと、同じだったんだわ」
静寂を拒み続ける死者が答える。
「それほどその女を殺したいのなら、これからはティフォンとでも名乗ればいい」
――台風ならば、風がなくとも動ける。それ自体が風なのだから。
ああ――私は知っている。
あなたは私に何も与えず、奪うことすらできないことを。
ただ、その言葉が与えることのできる唯一の真実だというのなら――まやかしの時を照らす灯りとなって、私があなたの行く先を照らしてあげる。
竜の心臓は、死者をどこへも導かない。
まして、命あるものの導き手になど、なるはずがないのだから。