アキラ君の人間観察記-13-

数か月後。ロングシャンクの墓場を会場としたオフ会の当日。
夕刻から始まり深夜の三時まで行われたそれは、天気にも恵まれ(おぼろ月の美しい薄曇りである)、順調に進行した。
参加者同士のもめ事は、確かに起きなかった。
実際には爆発寸前の事態が何度もあったのだが、その度にファーという熟年の女冒険者が仲裁に入り、事なきを得ていた。
墓場という会場設定で、最も警戒していた下級アンデッドの襲来も、吸血鬼であるトゥースとクライドのふたりが睨みをきかせていたため、ほとんどなかった。
――ほとんど、である。
吸血鬼と同等の力を持つ上級アンデッドの襲来は、さすがに防ぎきれない。
招かれざる客の乱入に、オフ会参加者の半分は身の安全を守るために避難し、残りの半分は嬉々とした様子でバトルに参加、これを撃退した。その回数は三度か、それ以上――バトルに参加する者たちが寄ってたかってすぐに倒してしまうため、離れていれば特に被害は受けないと判断し、配膳係を含めた非バトル参加者たちは途中で数えるのをやめてしまった。ヴェントが後にトゥースに聞いたところによれば、アンデッドの襲撃回数は11回。オフ会に参加したくとも参加できない、ラウンドテーブルの差し金なのだそうだ。
あくまで推測だが、これはオフ会の名を借りたバトルイベントだったのではないだろうか。
開催時刻も、アンデッドが活発になる夜の間なのだから。
上級アンデッドとのバトルに興じる参加者たちの背中を胡乱げに眺めつつ、アキラは配膳係としての業務に徹し続けた。
オフ会終了直後にサファイアが屋台にやってきて、にこやかに声をかけてくる。
「どうでしたか、今回のオフ会は。参加者同士の喧嘩がないと、随分と楽だったでしょう」
曖昧にうなずきながら、アキラは彼女にたずねた。
「俺の参加も含めて、あんたの占い通りになったわけだ。満足かい」
「あら。私は占っていませんよ」
答えるサファイアは楽しそうだ。
「オフ会参加者のリストを見れば、喧嘩なんて起こるはずがないと予測するのは簡単です。占うまでもありませんね」
「……そりゃあ、いえてる」
バトルハイなのだろう。バトルに参加していた者の半分は、帰途につこうとする吸血鬼たちを追い、二次会バトルだのなんだのと叫びながら走り去っていった。
「おい、リーダーさんよ。サボってねーで、ちゃんと片づけ手伝えよ」
ゴージュがにやにやしながら声をかけてきたので、アキラはムッとした様子で「わかってる」と返し、帰りかけるサファイアに重ねて問いかけた。
「ちなみにあんた、次のオフ会はどうなると思う?」
「そうですねえ……」
次のオフ会は、トゥースとクライドの希望によりファロスで行われることになっている。
考えこむように顎に手をやり、しばらくしてからサファイアは答えた。
「あなた次第、ですね」
「……だよなあ」
聞くだけ野暮だったとでも言うように、アキラは肩をすくめてみせた。
墓場を去っていく参加者らを見送り、アキラは屋台の片づけにとりかかり始める。
例によって屋台の出張を依頼してくるゴージュを「次こそパス」とはねつけるも、無法松が安請け合いしたため、結局、アキラは次のオフ会の配膳も引き受けることになってしまった。

ファロスでのオフ会がどのようなものになったのか。
何か余程の目にあったらしく、アキラは多くを語ろうとしない。
ただ、その次の会では解散する前に屋台を撤収することで、後片づけの忙しさに紛れて行われるゴージュからの依頼をやり過ごしたようだ。
が、そのまた次の会ではやはり屋台出張を請け負っている。
ヴェントのゴージュに対する「仲間思いで面倒見がいい」との評を思い出しながら、アキラは同意するようにうなずいた。
ゴージュはヴェントほど素直に考えていることを外に発散させるタイプではない。
といって、常に腹に一物を抱えているようなタイプでもなかった。
(素直じゃねーから表現の仕方も曲がっちまって、気づかねーやつは絶対に気づかねーんだろうけど)
一集団をまとめ、率いるだけの器はしっかり持っているのだ――ヴェントの評に今更ながらの追加をして、アキラは視線を手元から正面へと移した。帰り間際に口論を始めてしまった者たちと、その仲裁に努めるゴージュの姿が目に入る。
(ああいうやつは、嫌いじゃない)
別に好きってわけでもねーけど――自身の「曲がった」表現に苦笑を漏らし、ふと考える。
(……だから、断れないのかね?)
出張屋台の依頼を受け、参加するたびに少なからず後悔する事態に巻きこまれ、それでもゴージュからの依頼を「なんとなく」請け負い続けてきた、その理由だ。
しばし考えこむように目を伏せ、首を振り、アキラは片づけを再開した。
騒ぎを治めたゴージュが屋台にやってきて言う。
「よう、たい焼き屋。次のオフ会なんだがよ……」
いつもの切り出し方である。
返すアキラの言葉もまた、いつも通りのもの。
「ったく、冗談じゃねーぜ、ゴージュさんよぉ……」
言葉のままの拒否の意は、こめられていない。
これが彼らの挨拶のようなものなのだ。

フォロー(あとがき)

ブログで4年にわたって書いたり休んだりを繰り返して進めていたもの。
サイトで取り扱っているジャンルのキャラクター同士がオフ会をしたら…というベースは、「キャラ茶2009」(2009年の日記絵ログ内。60KB)が元ネタです。
あの作品のあのキャラと、この作品のこのキャラが仲良かったりしたら(自分が)嬉しいなあ…という妄想を押し広げて書き連ねたもの故、両作品を知らない人にはピンと来ない部分が多いかもしれません。
それでも「ああ、気持ちはわかる」とうなずいてくれる方がいたなら、とても嬉しいです…。

以下、ゴージュの薬草の丘オフ、参加者一覧。

アキラ、オルステッド、無法松*(ライブアライブ)。
ゴージュ、ヴェント、トゥース、クライド*、ブリズ、ヒロユキ*、イスカンダール、ルビィ、サファイア、キャッシュ、ジュディ、マリー、ロイ、ノース(U:サガ)。
セフィロス、クラウド、ヴィンセント(FF7)、スコール、リノア(FF8)、ティーダ、ユウナ*、アーロン、リュック*(FF10)、ケフカ*(FF6)。
リロイ&ラグナロク、ジェイス*(RAGNAROK)。
ヴァルキリー*、エインフェリア3名*、レザード*(ヴァルキリープロファイル)。
アマテラス&イッスン、ウシワカ*、オキクルミ*(大神

「*」印は呼ばれてないのに勝手に来ちゃった、もしくは会に関係なく登場した人たち。

その他。
「○○同盟」…各自出身地(原作)に関係なく、共通点によって自由に出入りできるグループ。○の中に入るのは、悪役とか主役とか。